しげおかくんと土曜日
どう考えても重岡くんに別れを告げられたい。
申し訳なさそうな顔をさせたい。
伏し目がちな横顔を眺めたい。
行かないでと縋りたい(重い)。
さようならと言われるよりも 言う方がきっと ツライ (雪白の月-KinKi Kids)
んです。
重岡くんには、自分から相手にさようならと言う辛さを味わってほしい、そんな性癖があります。
もし僕らが、ジャニーズWESTでなかったら
-しげおかくんと土曜日
前回から随分と間が空いてしまった。
3月の半ばには行けると伝えていたのに。
気がつけば年度は変わり、支店には後輩が増え、俺たちは社会人3年目に突入した。
大学時代から付き合っている彼女とはもう少しで丸4年になる。
彼女は就職を機に上京し、まあ、いわゆる丸の内OLになった。
会うたびに少しずつ彼女は変わって行った。
髪型が変わり、化粧が変わり、ネイルをするようになり、まつ毛にはエクステを付けている。
毎週末のように客先の付き合いでパーティやらゴルフやら、ありとあらゆるイベントに駆り出されとても忙しい毎日を過ごしているようだ。
俺がたまに遊びに行っている間でも、彼女のスマートフォンは忙しく通知を知らせる。
部屋にはたくさんの服とバッグとコスメが散乱している。
玄関にはシューズボックスに入りきらないハイヒールが転がっている。
「見た目を綺麗にしておくのも仕事のうちなの」
「そうなん、大変やな」
「あ、ごめんね、ちょっと電話出てくる」
Tシャツにジーンズで、飾らないショートボブにすっぴんに近いメイクの彼女が懐かしい。
2人ともあの頃とは違う。
彼女は大人になったし、きっと俺もそうなのだ。
「相変わらず仕事忙しそうやな」
「そうね、3年目ってわりと大事だし毎日気が抜けない感じ」
「しんどないか?無理してへんのか?」
「大丈夫だよ、やりたかった仕事だもん」
そうだ。
彼女は夢を叶えた。
目を輝かせて淀みない返事をした彼女。
少しでもいいから弱音を吐いて欲しかった。
もうしんどいな、帰りたいな大阪、と言って欲しかった。
彼女が仕事に疲れ切ってボロボロになっていたら言えたのに。
結局、自分から、もう無理せんと帰って来いよ、とは言えないのだった。
「あのさ、」
「ん?」
「俺、今日帰るわ。まだ最終の新幹線間に合うし」
「え、なんで?泊まって行かないの?」
「今日はこれからのこと話がしたくて来てん」
「なに、これからのことって」
「俺らもう無理ちゃう?厳しない?遠距離とか」
「なんでよ、どうしたの急に」
「学生同士やったらさ、時間も作れてたけど、お互い仕事もあるし、お前なんか休みの日もずっと忙しそうやんか」
「私は大丈夫だって言ったじゃん」
「正直、もう俺の入り込む隙が無いねん、お前の生活の中に」
「あるよ!作るよ時間なら!」
「だから、俺のために無理せんで欲しいってこと」
「いきなり意味わかんない、なんで、嫌いになった?私のこと」
「そういうことやない」
「じゃあなんで」
「…ごめん」
「謝らないでよ」
「ごめんな、終わりにしよう」
やっぱり泣かせてしまった。
あんな顔を見たかったわけじゃないのに。
帰って来いよ。
一緒になろうや。
そう言えなかった自分の弱さが悪いのだ。
彼女は悪くなかった。
会えない時間と距離に勝てない俺が悪かった。
飛び乗った最終の新幹線。
これでもう当分東京に来ることもないと考えると無性に寂しかった。
あんなに好きだった彼女の最後に見た顔が泣き顔だなんて。
本当は辛くて寂しくて心が引き裂かれそうなのは自分の方なのに、窓の外を眺めながら、幸せになれよと願わずにはいられないのだった。